もしこれから出産する方に「育児に一番大事なことは?」と聞かれたら、私は「養育者(たいていは母親)の情緒の安定」と答えます。しかし、それは子供のためではなく、親のためです。
親の情緒が安定していると、子供も穏やかに成長する?
‟お母さんが不安を抱えることは、子供の脳の発達にとってよくない”という説があります(『発達障害の改善と予防』)。しかしながら、現実は因果関係が逆でしょう。
情緒の安定した親の子供が同様に安定しているのは、親の影響ではなく、子供が安定しているから親も心穏やかでいられる(子供から親への影響)か、もしくは遺伝の影響で親子の性格が似ているからである可能性が高いと考えられます。
行動遺伝学の分野では、親の育児スタイルは子供の性格に影響をおよぼさないという説が常識になっています。長期的に見れば、親の接し方が子供に与える影響はほとんどありません。
短期的に見ても、親がイライラしているから子供が泣く、というようなことは説得力がありません。
親が心を落ち着かせるのは、子供の将来のためではなく、自分の平穏のためです。
育児はイライラすることの連続
程度の差はありますが、かなりのお母さんがイライラしながら育児をしています。パパが協力的でない、義理の家族や親戚との価値観の違いなどもあるかもしれませんが、子供に対するイライラを聞くことの方が多くあります。
多くの赤ちゃんは自力で寝てくれません。特に新生児は1日のほとんどを寝て過ごすのに、寝るのが下手です。寝る前にぐずります。起きてぐずります。寝たと思って布団に置くと、ぐずって起きます。何なら抱っこで寝かしつけて、布団に近づいただけで起きます。そしてもう一度、寝かしつけです。それを何度も繰り返して眠れない人もいます。
また、乳児期の育児は痛みに満ちています。授乳も最初は痛みを伴います。噛む赤ちゃんもいます。動きが活発になると、ものすごい勢いでひっかかれたり叩かれたりします。真っ赤になるまでつままれます。あごをめがけて全力で立ち上がってきます。足蹴りもされます。積み木や本を投げてきます。
動けるようになると後追いが始まり、トイレまでついてきます。姿を消すと泣き叫びます。家事も思うようにできません。おんぶで家事をしようにも、おんぶを嫌がる子もいます。ベビーカーを嫌がる体重10キロ超の赤ちゃんを抱っこして外出する人、抱っこ紐を嫌がるので素手で抱っこする人、抱っこのしすぎで腱鞘炎や腰痛になる人……、よくある話です。
お風呂、歯磨き、おむつ替え、服を着るのも嫌がる。食事も大変です。離乳食を食べない、食事を投げる、食事中に立ち歩く、遊ぶ、エプロンを付けるのを嫌がる。食後は大惨事の後片付けがまっています。1歳頃になり離乳食に慣れてきたと思ったら、急に食べるのを拒否したり、偏食が激しくなったりします。
そうこうしていると、だんだん自我が出てきて、思い通りにならないと、ちょっとしたことで癇癪をおこします。手が離せない時に限って抱っこを要求し、待たせようものなら世界の終りのように泣き叫びます。足にまとわりつき、行く手を阻みます。遊びにつれていっても場所見知り、人見知りで母親のそばを離れません。母親はこれ以上できないくらいがんばっているのに、何をしても責めるように泣き続けます。
言葉が少し出てくる頃には、何でも「イヤ!イヤ!」と言い出します。あらゆることを自分でやりたがりますが、できません。時間がかかります。親の予定はいつもくるいます。
子供を産む前は、情緒の安定なんて難しいことではないと思っていました。しかし、産後に悟りました。育児とは、親の忍耐と寛容を育てることだと。
イライラ解消法
私はそれと知らずにやっていたイライラ解消法があるのですが、科学的にも有効なやり方だったことが、後に雑誌や書籍を読んで分かりました。
私がやった方法は、次の通りです。
- 自分は情緒が安定している人間だと思い込む
- イライラした時の行動を決めておく
- イライラを小出しに消化する
1.自分は情緒が安定している人間だと思い込む
これは、科学的にも妥当な方法だそうです。
怒りをなくすよりも、穏やかな自分を想像する方が簡単だからです。普段から、自分は穏やかで寛大な人間だと思うことで、本当にそのような状態に近づいていくことができます。
他人から、「怒ることある?」などと聞かれても、「あまり怒ることはないな~」と言いましょう。実際に怒っても不思議でないシチュエーションで心を静めることができたら、‟やっぱり私って怒らない人だよね”と噛みしめ、信じ込みましょう。
2.イライラした時の行動を決めておく
基本的には、強い怒りやイライラを感じたら、その場を離れて落ち着くことにしています。
小さな赤ちゃんが相手の場合は、離れることは難しいと思いますが、心の中で好きな曲を歌うとか、時計の針をただ見つめるとか、何でもいいので、イライラしたときの行動を決めておきましょう。
子供をしかる必要がある場合は、なおさら怒りのままに口に出すまでに、落ち着くようにしないと後で自分が後悔します。
知らず知らずにやっていたこの行動ですが、『マシュマロ・テスト 成功する子・しない子』で紹介されている「イフ・ゼン」プランに似ています。
「イフ・ゼン」プランとは
「イフ・ゼン」プランとは、ストレスの大きい状況になった場合の行動をあらかじめ決めておくことで、自制心を保つというものです。ストレスの大きい状況は、たいてい決まったシチュエーションで起こるので、あらかじめ特定しておきます。例えば、「もし子供が食事中に遊びだしたら」「もし子供が何をやってもぐずぐずしていたら」「もし子供がエンドレス夜泣きをしたら」など。
そして、その時にどうするのかもあらかじめ決めておます。例えば「心の中で10数える」「出産した瞬間を思い出す」「明日、自分に買ってあげるおやつを考える」など、なんでもいいです。後は、なるべく実行するように努力します。成功が続けば、自動的に対応できるようになります。大事なのは、目先のストレスから気をそらし、落ち着くことです。
3. イライラを小出しに消化する
我慢に我慢を重ねて爆発するよりも、イライラを感じたらその都度消化すると、大噴火を起こさずにすみます。
怒りは外部に向かうエネルギーですが、内部にはその根源となる感情があるはずです。自分の感じている痛み(悲しみや辛さ)にフォーカスすると、攻撃性はなくなっていきます。強い苛立ちや怒りを感じたら、まず、自分がなぜ痛みを感じるのか考えます。どうしても外に出てしまう場合は、なぜ辛いのか言葉でいいます。もしくは、「辛い」「悲しい」とだけ言ってもいいです。
例えば、子供の寝ぐずりにイライラが止まらない時。「もう寝てよ!」などと怒鳴るのではなく、「悲しい……、なんで寝てくれないのかな……」といったように、悲しいという事実やなぜ悲しいのかを言います。
「悲しい、悲しい。この世の終わりじゃ!」と大げさに落ち込んでみるのもいいかもしれません。そうこうしている間に怒りがやわらぎますし、そんなに悲しむほどのことでもないと気付きます。
悲しみにすることで、他の人に怒りをぶつけて傷つけることを防げます。自分も罪悪感や後悔を持たなくてすみます。落ち着いたら、「さっきはXXXだったから、悲しくなってしまった。」と言います。
もしくは、子供がある程度大きかったら、さらに、「今後はどうしたらいいか、一緒に考えたい」と、改善策を子供と一緒に考えるといいでしょう。
その都度、自分の感情に向き合って、相手に伝えると大爆発しなくてすみます。
人間だもの、イライラして当たり前
大爆発より悪いのは、ずっと我慢し続けて感情を表にださないことです。内心イライラしていたり、怒っているのに、笑顔を作っている人って逆に最も怖いですよね。
親になっても、感情があり、嫌だと感じることがあるのは当然です。そして、それを子供(赤ちゃんであっても)にも伝えることで、むしろ親子関係がよくなります。