子育てなんて自然に任せていれば何とかなると思っていませんか。
マニュアルを参考に育児している動物なんていない。人間も動物だし、本能的にすべきことが分かるはずだと……。それに、必要なことは入院中に教えてもらえるだろうしね、と。
私が産後に驚いたことは、「こんなんでよく人類は絶滅しなかったな」ということと、「人間としてン十年生きてきたのに、人間の赤ちゃんがこんなに大変だなんて知らなかった」ということ。『いまの科学で「絶対にいい!」と断言できる最高の子育てベスト55』によると、1人の赤ちゃんを8時間ごとに14人で見守る集落があるとか。その集落はどこにあるんだ?連れて行ってと切に願った!
真夜中にギャン泣きしているのを見ながら、これが天敵のいるジャングルの中だったら母子ともに確実に生きていないなと何度となく思いました。
現代はお母さんのワンオペ育児が多いけれど、昔からそんなだったら絶対に人類は滅びているはずです。絶対。
寝返りできない、自力でげっぷもできない、24時間ところかまわず泣く(ただし移動中は泣き止む)、一人で眠れない……。こんな状態の赤ちゃんを母親ひとりで守れるはずがない。
間違いなく、人類は集団で子育てすることで生き延びてきたはずです。母親以外が赤ちゃんの面倒をみるのはもちろん、弟や妹、親せきの赤ちゃんなどの世話をしていたわけです。
さらには、そのような経験を通じて子供の頃から育児について学べる環境がありました。困ったことがあっても子育て経験豊富なおばあちゃんが身近にいて、情報交換できるママ友もたくさんいたでしょう。
そのような環境は、おそらく生物史上もっとも育てにくい赤ちゃんを育てる上で必須だったはずです。逆にそういう環境を実現できたからこそ人間は進化でき、赤ちゃんもウルトラ育てにくくなったと言えます。
人間は二足歩行のため骨盤が狭くなった一方で、脳の発達により人間の頭は大きくなり、産道を通るために胎児の状態で生まれてくるという説があります(生理的早産説)。『夢をかなえる能』によると、出産後半年近く胎児状態が続くそうです。
つまり、半年くらいたたないと何もできないのに生まれちゃうわけです。
本来は胎内にいるべき状態で外界に出てきてしまうので、そりゃあ育てにくいはずです。首はグラグラ、目はほとんど見えていません。月齢の小さい赤ちゃんがおくるみで安心するのも本来いるべき胎内環境に似ているからでしょう。
さて、ワンオペ育児全盛の現代。
協力する人もなく、子育ての経験もなく、あるのはただ天敵のいない安全な家だけ。天敵がいないから、必死にがんばれば母子ともに生き延びられるけれど、母親の心身の摩耗は半端なく産後うつになることも。
だって、赤ちゃんは昔となんら変わらず、集団で育てることを前提として生まれてくるから、ワンオペ育児をするなんて無謀なんです。しかも予備知識もないなんて、丸腰でラスボスと対決するようなものです。
年の離れた弟や妹がいて、赤ちゃんの面倒をみた経験がある人は幸いです。おばあちゃんが同居している人も(関係性やおばあちゃんのキャラにもよりますが)、心強いことでしょう。
育児の経験もなく、日常的に頼る人もいないのに、もうすぐ出産、もしくはもう出産したという場合はどうしたらいいでしょうか。何らかの形で情報を入手する、というしかないです。
私の場合、産前に情報収集をしなかったのでネットが唯一の頼りでした。
新生児の奇妙な行動を見て、病気なのではないかと検索したところ、よくあることだったっだり。検索魔になると不安を煽られるのでよくないと言うけど、孤独な育児のなかで24時間いつでも頼ることができたのはネットだけでした。一昔前の核家族の母親は、ネット無しでよく育児ができたなと思ったものです。
新生児期を過ぎると、外出することも増えママ友もでき、本を読む時間もできて、ネットに頼ることは減りました。ネットは便利ですが玉石混合というか、色んな石が転がっていて、たまに玉……みたいな。やっぱりママ友や育児経験者との会話や書籍の方が参考になりました。
もちろん一番いいのは実践経験なので、今後出産をしたい方は、お姉さんや親友など近しい人で出産する人がいれば協力しに行くのを激しくおすすめします(その際は、赤ちゃんのお世話はお母さんから要望があった場合だけにして、お母さんの身の回りのことや家事をやってあげると喜ばれるでしょう)。
実践の機会もそうそう転がってないので、そういうチャンスがない場合は書籍を読むことをおすすめします。経験者に話を聞くのもいいのですが、私の場合、産後に「こんな大事なことを誰も教えてくれなかったのはなぜだろう」と思うことが多々ありました。
赤ちゃんもそれぞれ個性があるので、実体験からアドバイスをしても参考にならないと思ったのかもしれません。もしくは、これから出産する人が知っておくべきことが何なのか分からなかったのかもしれません。実際、産後に経験者に話を聞くと、こちらの質問も具体的なので、具体的な話を聞けることも多かったです。
また、覚えてないと言われることも多くありました。前向きに生きていくために、嫌なことや苦しいことって忘れるようにできているんですよね。
例えば、新生児育児でへとへとになっていている人が「いつになったら、楽になったと感じた?」などと聞くと、経験者は「育児はずっと大変。大変さの種類がかわるだけ」と言ったり、第二子がいれば「1人ならなんとかなるよ~」とか、仕事復帰したら「専業や育休中なら、家事も育児も両立できる」とか。
もし新生児育児でへとへとな人がいたら、お伝えしたいです。育児はどんどん楽に、楽しくなりますよ、と。
もちろん、違う種類の大変さはあるけれど、胎児状態の赤ちゃんが人間になっていくのだから、当然どんどん逞しく自立に向かっていきます。母親だけに頼っている状態から、お友達に興味を持つようになっていきます。
自我が出てきて、コミュニケーションもとることができて、行動範囲も広がって、楽しみはどんどん増えます。もし、ずっと大変だと言う人がいたら、過ぎ去った苦労を忘れているだけだと思います。
長くなりましたが、初めの育児をする方に、参考になるであろう育児書ベスト5をご紹介します。
1.『親業』(トマス ゴードン著)
子供とのコミュニケーションに関する書籍で本書を凌駕するものは、今なおないのではないかと思います。
同じような書籍には、有名な『0~3歳の これで安心 子育てハッピーアドバイス』やアドラー系などの心理学の本やカウンセラーが書いた書籍など何冊も読みましたが、それらよりずっと参考になります。
ちなみに、この本の前に『子どもの話にどんな返事をしてますか?』(ハイム・G・ギノット著)を読みました。初版は1965年に出版されたそうですが、今読んでも参考になります。
そこには、親が子ともに対してかける言葉は、「大人が、客や見知らぬ人にたいするときに使う言葉」ということが書かれていて、なるほど、特殊な能力が必要なわけでなく、心がけ次第で誰でもなんとかなりそうだ、という見通しを持てます 。
しかし、例として掲載されている会話が神がかっているものもあるので、高度なレベルで実践するのは難しいと感じました。
『親業』は、「大人が、客や見知らぬ人にたいするときに使う言葉」を子供に使うには、何に気を付けたらいいのか、どういうアプローチをしたらいいのか詳しく解説しています。
読みやすいですし、1歳~中高生の子供の親まで広く参考になると思います。
2.『坂本廣子の台所育児 一歳から包丁を』( 坂本廣子著 )
生きる力をつけるには、家事能力が重要です。特に日本の男性は家事も育児もほとんどしない人が多く、離婚に至ったり、単身で不健康な生活を送ることにつながる恐れがあります。もともと子供は家事が好きなので、やりたい時に挑戦させ、できたら「ご褒美として」その家事を子供に任せるのがおすすめです。
本書については、「【1歳~6歳】『坂本廣子の台所育児 一歳から包丁を』レビュー」を見てください。
3.『マインドセット』(キャロル・S・ドゥエック著)
育児書ではないのですが、育児の参考になるのでここでは育児書として取り上げます。
環境は変えるのは難しいけれど、環境をどうとらえるかは(ある程度は)本人次第。そしてとらえ方によって、挑戦する意欲をもつことも、委縮することもあります。
同じような環境にいても、ある子は勤勉になり、ある子は諦めてしまう。その違いはマインドセットからくるのではないか、というのが本書の主張です。もちろん遺伝的な性格も影響すると思うのですが、ちょっとした声かけでモチベーションが変わり、成績が変わったります。
このようなポジティブ心理学系では、『GRIT やり抜く力』(アンジェラ・ダックワース著)や『オプティミストはなぜ成功するか』(マーティン・セリグマン著)なども面白かったです。
4.『幼児教育と脳』(澤口俊之著)
テレビでも活躍されている脳科学者の澤口俊之さんの書籍。それまで幼児の英語教育は不要と思っていましたが、可能ならばやってみようかなと考えを変えてくれた一冊。英才教育の方法もなるほどと思いました。
『幼児教育と脳』 は学術的なのでちょっと読みにくいかもしれません。著者の提唱する幼児教育について手軽に読みたい方は、『子どもの脳がぐんぐん育つ 『子どもの脳がぐんぐん育つ 「やる気脳」を育てる』がおすすめです(ただし、英語のことは書いていません)。さまざまな研究を著者の解釈で完結にまとめていて、それはちょっと違うのではないかと思う部分もありますが、さまざまな研究のエッセンスが盛り込まれていて参考になります。
5.『子育ての大誤解』(ジュディス・リッチ・ハリス著)
育児書ではないのですが、子は親の背中を見て育つ的なプレッシャーに押しつぶされそうな方は必読です。親がどう子供を育てようと、子供の性格に永久的な影響は残さない、ということを検証していきます。かなりボリュームのある上下巻なので、子供の性格形成について科学的に興味がある!という方でないと厳しいかもしれません。
『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(橘玲著)の一部の章で、本書要約して掲載しているのですが、専門外の人が書いているので分かりにくくおすすめできません。それなら、 本書と同じく行動遺伝学を解説する『遺伝子の不都合な真実』(安藤寿康著)の方が面白いです。
その他いろいろ
赤ちゃんのネンネ・生活系
子供がこれから生まれるのであれば、『カリスマ・ナニーが教える赤ちゃんとおかあさんの快眠講座』(ジーナ・フォード著)をお勧めしたいです。こちらは、子供が一人で寝られるようにするネンネトレーニング系の本なのですが、我が家ではおくるみも、一人寝もさせない方針でしたが、タイムスケジュールは参考にしました。赤ちゃんの生活リズムって知らないと思うので、産前の方はぜひ予習して、赤ちゃんが愚図る前に授乳や寝かしつけをしましょう。
語りかけ系
『語りかけ育児』は、赤ちゃんが喜ぶ話しかけ方が分かりやすく紹介されています。親の語りかけで将来の言語能力が決まるとは思いませんが、赤ちゃんにどのように接するか参考になった1冊です。返事をしない赤ちゃんにどう話しかけたらいいのか分からないという人にはおすすめです。
ちなみに、話しかけなきゃ、絵本を読まなきゃというプレッシャーが強い方は、「絵本の読み聞かせで学力やIQは上がらない!絵本の呪縛から解放されよう」もご参照ください。
そもそも幸せって何?って人へ
子供が幸せになって欲しい。でも幸せってなんだろう?と疑問をもった方にお勧めしたいのが『フロー体験 喜びの現象学』。
子供はのびのび育てばいい!と思いつつも、やっぱりいい学校に行き、いい会社に勤めてほしいという気持ちがどこかにありました。しかし、この本を読んでからは、幸せを子供自身で見つけて欲しい、どんな道に行こうが生き生きと楽しんでほしいと思えるようになりました。
特に序盤は読んでいると哲学的で眠くなるし、文字も小さいのですが、本が好きな方には面白いと思います。そうでないと途中で挫折したとしても不思議でありません。
最後に
いろいろ紹介しましたが、『幼児教育と脳』『子育ての大誤解』『フロー体験 喜びの現象学』は、手軽に読める感じの本ではないので、よっぽど興味があったらぜひ読んでみてください……。